株価だけ見てはいけない

超短期で分刻みで売買するというような状況でないかぎり、株価の「値」だけを見ることは危険である。モノの値段は原則として需要と供給の関係で決まる。株も例外ではない。

ある株の、売り株数が1株、買い株数が3株、このような場合でも株価は上がる。しかし、この株価の上昇は力強いものとはいえない。これに対して、売り株数が100万株、買い株数が300万株、このような場合でも、やはり株価は上昇する。たとえ、先の場合と価格面では同じ値幅だけ上昇したとしても、上昇について力強さがあり、その価格のもつ「実質」がまったく異なる。

この売り注文と買い注文が一致して取引が成立する。この取引の量を出来高(できだか)という。商い(取引)が成立したとすると、出来高は、先の場合では1株、後の場合では100万株ということになる。

株価は出来高と関連させて見ていかないと判断を誤まることになる。要するに、株価の上昇(下落)について出来高をともなっているかどうかが重要なのである。同じ5円高でも、一人が上げた5円か、みんなで上げた5円かでは、質的にまったく異なるものである。

一人で上げた場合は、一人が売りに回ると途端に株価が下落する。株価の上昇傾向は見かけだけの「張りぼて」である。ところが、みんなであげた場合は、何人かが売りに回ったところで、そう簡単には下がらない。株価の「力強さ」はこういうところで出てくる。


出来高

大企業は株数は多いから出来高も多く、中小企業は株数も少なく出来高も少ない。したがって、他の銘柄と出来高だけを比較しても意味はない。出来高で重要なのは、その会社での通常の出来高(売買量)より、現在の出来高が多いか少ないかということである。

出来高は市場参加者の規模または取引の規模を表す。株価上昇面では、出来高はその株の人気のバロメータであり(株価上昇・出来高大)、株価下落場面では、その株の人気が離散しかかっている(株価下落・出来高大)ことを意味する。出来高の多い日がある程度続くとそれは天井圏、少ない日が続けば市場からは見放されているか底値圏である。

出来高が少ないと、「自分の」買い注文で株価が格段に上がったり、逆に、「自分の」売り注文でガタンと株価が下がることも起こってしまう。こうなると、ダブルの損害になる(笑)。特に、出来高の少ない株(特に地方の市場に上場されているものに多いが東証にもある/特に2部株式)を売買するときは注意が必要である。最低限指値で売買することが防衛策になる。もっとも、指値の場合は売買が成立しないこともあるので、借金でクビが回らないのでどうしても売却して金が欲しいというときは別である(笑)。


出来高の使い方

少し古い例だが、松下電工は、株主への利益還元を目的に1997年(平成9年)2月末の株主総会で、今後1年間に5000万株を上限に自社株を取得することを決議した。なお、当時としては自社株買い(株式の消却)は非常に珍しい現象であった。

この時の株価は980円であった。自社株取得は理論的には株価に対して中立であるというのが多数の見方だが、実際的にはそのインパクトは大きい。
  1. 余裕資金がある会社だからできるというイメージが植えつけられる。
  2. 実際にも消却によって株数が減少するから1株利益も大きくなる。
概して、自社株取得は市場では好感される。そのせいか、 以後株価は上昇を続け7月31日には1490円まで上昇した。

松下電工の発行済株式総数は約7億5500万株である。理論上はこれが出来高の上限になるが、実際にはそんなことは起こらない。 最近は株式の持ち合いも解消傾向にあり、投信や生保・銀行も安定株主ではなくなりかけている。しかし、それでもまだまだこれら株主は安定株主の部類に入るだろう。安定株主は滅多なことでは株を手放さない。また、同族企業に毛の生えたような会社では、持ち株は支配権(または睨みをきかすための手段)そのものであるから、これら同族もそう簡単に株を手放したりしない。

したがって、実際に市場で売買される株は浮動株が圧倒的に多い。松下電工の浮動株比率は約11%であった(当時)。したがって、発行済株式総数の11%に当る約8300万株が実際に売買される可能性のある株数である。

このような状況で、1年間に分けてではあるが市場で大量(5000万株)に自社株式を取得して消却すれば株価が上昇するのは明らかである。ちなみに、1年間で取得するといっても、実際は決定後数ヶ月で予定全部の株式を消却するのが大半である。1年かけてジワジワとということは少ない。



ドシロウトの素朴な疑問
Q&A
221.119.218.55 [27/Apr/2010:01:17:13] 発行済株式数より出来高が多いのは
27.92.24.222 [27/Jan/2013:00:07:12] 浮動株より多い出来高
信用取引の存在を考えるとこういうことが起こるのは珍しくない。そんなことはあまりにも基本的な常識すぎて特別に書かれたりすることもない。

しかし、裏からいえば株について知らない者が多数この世界に入ってきたことのあらわれである。相場にとっては様々な投資者がいることが重要なことであるから、これは慶賀すべきことである。

カネに目がくらんだ愚民の素朴な疑問
出来高と株価には何の関係もないが、オバカたちの代表的な疑問に次のようなものがある。
Q&A
118.21.11.33 [17/Jul/2018:18:42:04] 売買高が多いのに株価が上がらないのはどうして
1.75.210.26 [01/Jun/2016:07:59:52] 株価買いが多いのに下がる理由
202.48.208.67 [10/Mar/2016:09:37:06] 株価で、売りよりも買いが多いのに株価はなぜ下がっているのか
64.233.172.177 [27/Nov/2015:11:17:52] 売りより 買いの方が 多いのに 株価が下がる訳は
123.108.237.116 [21/Mar/2015:21:39:55] 買い注文が多いのに株価が上がらない
106.137.107.136 [10/Mar/2014:15:32:43] 買株数が多く売り株数が少なくて株価が上昇しない訳
202.253.96.242 [24/May/2012:17:35:42] 売買高 買いが多いのに下がる
126.214.242.250 [25/May/2012:05:29:02] 出来高 買いの方が多いのに株価が下がる
210.225.142.134 [21/Sep/2015:07:09:19] 出来高が多いのになぜ株価が下がるのか
126.212.36.83 [16/Jul/2015:19:23:42] 出来高が多いのに株価上がらない
126.161.3.156 [01/Jul/2015:18:11:03] 出来高が高いのになぜ株価上がらない
118.240.121.89 [11/Sep/2014:09:59:40] 売買高が多いのに株価が上がらない
180.233.135.140 [10/Sep/2013:11:45:34] 出来高多い 上がらない
220.1.33.252 [06/Apr/2013:08:16:00] 出来高が多いが株価が上がらないのはどうしてか
220.24.105.135 [01/Mar/2013:00:47:52] 出来高が多いのに株価が上がらないのは何故
こういうオトコたちはどうも単細胞的思考にとらわれているようである。思考能力のないサルというほうが妥当だろう。ゼニカネに目がくらむと「普通に」ものごとを見ることができなくなるというサンプルでもある。

当然のことではあるが、単に「買いたい」者が多いからといって常に上がるとは限らない。今の値段より「安く買いたい」と思っている者が多ければ株価は下がるのは当然である。

今1000円の株があるとする。これを900円で買いたいという者が多数いたとする。それでも売りたい者は900円でも売った。当然株価は下がる。単にそういう状況だったということにすぎない。何の不思議もない。ごくごく通常のことにすぎない。こういう当然のことがもうわからないのである。

もっとも、こういうバカにも、金儲けができるぞと根拠のない夢を持たせて株式相場に引き込むのが政府・経済界の暗黙の了解なのだから、それなりの成果は出ているようである。

Q&A
126.255.137.215 [10/Aug/2015:12:29:59] 買いかぶすうが多いのに出来高が上がらないのは何故
126.254.217.209 [11/Aug/2015:09:12:07] 買いかぶすうが多いのに出来高が上がらないのは何故
これは「普通にものごとを見ることができなくなる」というパターンではなく、普通のことも知らない無知蒙昧のバカだというだけのことである。買いたいと言う者の「買い株数」と売りたいという者の「売り株数」が一致して売買が成立する。この数を出来高と言う(上で書いた通り)。「買いかぶすうが多」かっても売り株数(売りたいと思う者)が少なかったら売買は成立しない。したがって出来高もふえない。ただそれだけのことである。