銀行の株屋化

銀行が投資信託(投信)などの「投機性商品」を販売するようになってから久しい。今までのように預貯金なら金利を支払っていただけの「持ち出し」にしかならない。投信などを売れば今度は逆に手数料「収入」として入ってくることになる。勢いその売り込みに注力することになるのは当然の流れである。

こうなると、株の売買でその手数料をかせぐ証券会社との差が実質的にはほとんどなくなってくる。この点では銀行と証券会社は極めて類似したものになってくる。いわば、銀行の「株屋」化である。

株が上がろうと下がろうと、投信が上がろうと下がろうと、購入者にとっては重大なことでも証券会社や銀行にはどうでもいいことなのである。どちらにしても、それで銀行は損をすることはなく、手数料収入は入るのである。この点でもともと銀行や証券会社は顧客の利益などを考える必要はないようにできているのである。

  1. 思い込みの利用。
    証券会社の社員の話は半信半疑で聞いているのが普通である。しかし、銀行は証券会社にくらべると世間一般的に信用度が高い。この「思い込み」を利用して営業(販売)できる点が有利である。ここに、「だまされやすい」原因のひとつがある。
    しかし、売っているものは証券会社で扱っているものと同じである。株屋化した銀行(の営業担当者)のいうことは基本的には信用しないということが重要になってくる。

  2. 売り込みだけ。
    また、手数料稼ぎという点では、売り込みが中心になる。買ったものを売れとは基本的にいわない。「買い」があればいつかは必ず「売り」もある(売りの営業は不要)。これも証券会社と同じである。
    さらに、株とはちがって、投信の場合は、売買時の手数料だけでなく、売った相手が保有しているだけで仲介した銀行にも定期的に手数料が入ってくる。

  3. 営業の実態。
    そして、売買について適切なアドバイスできるような資質のある営業担当者はほとんどいない点も看過されている。銀行の「信用度」についての思い込みをここでも最大限に利用できる。
    「顧客の身になって親身にアドバイス」するなどというのは、テレビ向けのコマーシャルだけ世界である。
    実際は、「買い」のインセンティブ(動機付け)として「おいしそうな話」をする。「その気」にさせて買わせさえすれば、あとはどうなっても「自己責任」という強力な切り札を楯にして逃げる。これが営業の実態である。

  4. 巧妙な言い換えマニュアル。
    営業では「この投信を買えば儲かる」ということは言わない。しかし、その代わりに「この投信はプロが運用するから安心だ」と言って言外に儲かることを匂わせる。しかし、「プロ」の内実については明確な説明はない。通常は運用会社のヒラ社員である。「プロ」がやったところで常に儲かるわけではないのは当然である。実際にも元本割れを起こしている投信は掃いて捨てるほどある。
    さらに、この「安心」は「素人がやるよりはやや安心だ」という意味であるという逃げ口上まで用意されているのである(笑)。

このパターンは従来から証券会社の営業担当社員がやってきたことそのものなのである。銀行を通じて株や債券などに投資するときには、まず銀行についての今までの「思い込み」を払拭し、口八丁の株屋と大差がないという認識をもっておくことが基本になる。

銀行、証券会社の言うことは基本的には信用しない。これが投資の基本である。銀行が販売しまくった変額年金保険について、そのほとんどが元本割れを起こしているため保険会社の撤退が続いていることに対して、メガバンクの幹部が「手数料収入ばかりに目がいっていた」と述べている(朝日新聞2009/06/24)。商売をするのにあたって顧客のことなどは何も考えてはいないのである。
この点は今でもなんら改善されていない。「金融機関に顧客本位を求める声も強まっている」(朝日新聞2017/01/03社説)という始末である。

せいぜい防衛策としては、こういう手数料稼ぎのチンピラ営業社員を介さずにインターネットを通じてマイペースで取引するのことぐらいが「後で後悔しない」ための最良の手段であろう。

銀行という巨大金融資本が弱小な個人の利益を慮(おもんばか)って行動したことは過去一度もなかったということは銘記しておくべきである。


「銀行」シンボルの利用

大和証券の営業社員のうち約3400人が「大和ネクスト銀行1)代理店」という肩書の名刺を持ってシロウトや個人相手に営業をしているのも2)「銀行」という文字が入っていればバカな個人を簡単に信用させることができるだろうという悪知恵のひとつである。
NOTE
1) 大和ネクスト銀行は大和証券グループが100%出資して作ったネット銀行である。
2) 朝日新聞2012/12/12。

「証券」の肩書では門前払いだが、「銀行」ならそうなることが少ない。これは文字通りタダで使える営業「資源」である。庶民に根強くしみこんでいる「銀行」に対する思い込みを最大限利用した商法である。証券側はそれで大儲けができると期待しているようであるが、それでシロウトや個人が「いい目」をできるかどうかはもちろんわからない(笑)。


実例

銀行の持つ個人情報を元にして勧誘をかけてくるのが一般的なパターンである。誰がいくらぐらい金を持っているかを熟知して勧誘にくるから、「わが家にはそんなお金なんかない」という定番の断り文句が使えない。

このように、プライバシーをのぞき見してやってくる営業が一番悪質である。
「あなたは、※※円もっているから、資産の分散という点から、そのうちの※※円ぐらいはこちらに使ってもいいのではないか」というパターンにコロッといかれてしまうのである。

投資信託で損失額が3000万円以上にもなった83歳の男性の例では、
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父親は当時独り暮らし。預金していた銀行からグループの証券会社を紹介され、購入したようだ。
- 朝日新聞2009/08/21 -
また、70代の女性の例では、
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定期預金先の銀行から何度も電話があり、「元本は減らない」というので変額年金保険を契約したが、1年で100万円目減りした。
- 朝日新聞2009/08/21 -
銀行の言うことなら信用するだろうという一般人の「思い込み」を巧みに利用したものである。

「生損保研究会ぐるーぷ31」という団体が行なった「突撃レポート」でも次のようなことを指摘している。
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各メンバーが1人1~3商品の調査を担当することとし、保険を売る銀行の窓口などに出向くことになった。 しかしすぐに壁にぶつかった。 銀行は自行に取引口座がある顧客には正式な資料を渡してきちんと説明するが、いわゆる「一見(いちげん)さん」にはカタログを渡す程度であまり説明しない。口座情報からターゲットを絞る銀行のやり方が垣間見えた。
- 朝日新聞2020/03/30 -



認識

株や債券がこう下落してくると、いつもながらこういうボヤキが出てくる(笑)。証券会社などは人をだまして商売することが公認されている気楽な業種であるという認識が足りないようである。
LOG
126.214.1.132 [02/May/2016:18:40:11] 証券 営業 ウソばかり
192.218.140.228 [10/Oct/2008:16:26:40] 証券会社 ドル 投資信託 だまされた
窓口やセールスにくる営業担当者でまともに経済情勢の分析できるような者はだれもいない。手数料稼ぎのための「売り込み」一辺倒の単なるロボットにすきない。手数料稼ぎのためにマニュアル通りを「オウム返し」のようにしゃべっているだけである。
顧客のことなどは元々念頭にはない。証券会社や投信を販売する銀行などの言うことは信用しないというのが投資の基本である。

こういう認識がないと次のような、銀行員の男(49)と部下の女(25)に八つ当たりした事件を起こすことになる。
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掲示板に「不倫現場」とうそ、容疑の大学職員を逮捕
インターネット掲示板「2ちゃんねる」にうその書き込みをして、銀行員を中傷したとして、岐阜県警は1日、岐阜市西中島2丁目、朝日大学職員小坂井紳介容疑者(40)を名誉棄損の疑いで逮捕し、発表した。「親が投資信託で損をしてその腹いせにやった」と容疑を認めているという。(中略)。署によると、小坂井容疑者は「親がこの女性と契約して損をした」などと話しているという。
- 朝日新聞2010/03/01 -
銀行員などは手数料稼ぎのためのただの「オウム」にすぎないということは肝に銘じておくのがいいようである。


銀行の株屋化/企業版

このような事態は個人を対象にするだけでなく、中小企業に対しても銀行の「優越的地位」を楯にとって行っていることは以前から指摘されていたことである。以前は歩積み預金1)や両建て預金2)などのあくどい高利貸し的な商売をしていたことはよく知られているところである。
NOTE
1) 銀行が手形割引に際して一定割合の金額を積み立てさせておく預金(拘束預金)。実質的に割引金利を高く取ることになる。
2) 銀行が貸し付けに際して、貸付金の一部を預金させておくこと(拘束預金)。借り手には実質的に高金利になる。

これらの商売が「お上」の「お触れ」によって禁止されてからは、銀行は金融派生商品の販売に方向を変えたようである。しかし、最近では、銀行から「ヘンなもの」を無理やり買わされて倒産するという事例が後を絶たない。
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通貨デリバティブで経営難、金融庁が実態調査へ
金融庁が、メガバンクなどの主要行を対象に、「通貨デリバティブ」と呼ばれる金融商品の販売方法や取引先の損失状況などについて実態調査に乗り出すことが4日、明らかになった。
急速な円高で、通貨デリバティブを購入した中小企業が多額の損失を被り、経営難に陥っている事例が出ているためだ。調査結果を分析し、銀行に適切な販売を促す考えだ。
帝国データバンクによると、通貨デリバティブが原因で倒産した企業は2008年は3社だったが、今年は11月末時点で16社に上り、国会でも問題視する意見が出されている。
金融庁は〈1〉銀行が取引先などに無理な販売をしていなかったか〈2〉損失のリスクを事前に説明していたのか――などの点を調べる。
- 読売新聞2010/12/05 -
中小企業の弱みにつけこんで融資のエサにこういう金融商品を買わせる。融資の担保はチャッカリ取っているからチマタのゴミのような中小企業ごときが倒産したところで「我関せず」である。元々銀行は損はしないのである。


参考
株屋の詐欺師化(ts4_0011)


重要
銀行、証券会社、保険会社には、合法的に顧客をごまかすテクニックが多数用意されていることに注意しよう(笑)。



いつもよくトラブルを起こす「みずほ銀行」にニュース。
「【速報】みずほ銀 またシステム障害 一部の外為取引が遅延」(FNNプライムオンライン2021/09/30)に対して、つぎのようなヤフコメ(ヤフーニュースに対するコメント)があった。
参考
hir***** | 38分前
元みずほ行員です。行内にいると分かりますが、働いている人達は顧客のことなど全く考えていません。ましてや利ざやの薄い個人顧客など尚更。みな社内で如何に出世するしか考えていないのでこのようなことが起こる。
これに限らず、いたるところでトラブルや不具合は起きています。それでも、その原因追及をせず、責任を他人に寄せて、手柄は自分のものとし、ひたすら出世競争にしか興味がない、それがみずほです。そんなみずほに嫌気がさして辞めたのですが。。
これは「みずほ行員」だけにあてはまるものではない。すべての銀行員の実態はこれによく似たものであろう。口先だけの詐欺師まがいの銀行員の「踏み台」にされないように注意しよう。