為替相場に影響を与えるもの

円ドル相場をはじめ為替相場の変動はさまざまな要因で起こる。そのうちで重要なものは次のとおりである。特に、国際収支の経常勘定と物価の安定度は為替相場決定の基本的な要因である(ファンダメンタルズ)。

経常収支

国際収支の経常収支(貿易と貿易に準ずる取引)は為替相場に大きな影響力をもつ。
  1. 日本の経常収支が黒字1)-ドルが売られて円が買われる-円は強くなる→円高
  2. 日本の経常収支が赤字2)-ドルが買われて円が売られる-円は弱くなる→円安
NOTES
1) 日本が黒字のときは、外国はその分だけ外貨を売って、円を買って日本に支払わなければならない。買われる通貨は強く、売られる通貨は安い。
2) 日本が赤字のときは、日本はその分だけ円を売って、外貨を買って外国に支払わなければならない。買われる通貨は強く、売られる通貨は安い。


物価

物価の安定度によって為替相場は影響を受ける。
物価が安定している国の通貨には値打がある(保有する価値がある)ということである。また、物価が安定していることは、その国の輸出競争力に大きな影響を与え、ひいては経常収支にあらわれてくる。

たとえば、日本がインフレで他の国に比べて物価が割高であれば日本の輸出競争力は落ち、経常収支も赤字に陥ることになる。
外国からみても、今日の100円が明日には90円になるような、そんな国の通貨を持とうとは思わない。インフレが激しい国の通貨(通貨の価値の目減りが速い国の通貨)は買われることはないということである。


金利差による資本移動

一般的には、経常収支が黒字の国の通貨は強く(買われる)、赤字の国の通貨は弱くなる(売られる)。しかし、経常収支が赤字であってもその国の通貨が買われる場合がある。
経常収支の赤字を埋めるために外国から借金をすることになったとする。この場合、借金をするためには資本を供与してくれる国よりも金利を高くする必要がある(そうでなければどの国も相手にしない)。

たとえば、自国の通貨で運用するよりも、アメリカのドルに替えてアメリカの高い金利で貸したほうが有利であるという状況を作り出せば、ドルは買われる。結局は、アメリカの経常収支が赤字であってもドル高になってしまう。
すなわち、アメリカに資本を投下したほうが有利であるからアメリカの債券を買うとか、アメリカの銀行に預金するという形で資本移動1)が大量に行われれば(金利差による資本移動)、結果的にドルは買われて強くなることになる。

そして、経常収支の動きよりもはるかに大きな残高の資本がある。これはその移動によって為替相場が大きく変動する可能性があることを示すものでもある。
NOTES
1) 単純な金利差だけで資本は移動しない。直物と先物との為替相場の差よりも金利差が大きい場合に資本の移動が起こる。吉野俊彦「円とドル」(日本放送出版協会)134~135p。


アメリカの財政赤字

アメリカが国際収支の赤字を埋めるために外国から借金をする必要がある。借金するからには魅力的な金利を提示しなければならない。

アメリカが財政赤字に陥るのは、軍事力の確保のために膨大な資金が必要だという面もある。また、選挙などがあれば選挙対策として大幅な減税をしたりすることもある。

このようにして、アメリカの財政は赤字になり、そのために国債を大幅に発行して資金を調達する必要がある。それも低利率では誰も買ってくれないから、アメリカの金利は上がることになる。

アメリカの財政赤字と公定歩合は、ドルと円またはその他の通貨との為替相場に大きな影響を与える。


通貨当局の介入

単独の場合と協調の場合がある。単独の場合は他国からは自国至上主義の為替誘導だと批判され、効果も少ない。協調介入のほうが当然ながら為替相場への影響力は強い。
NEWS BOX
東京円、一時1ドル=81円台に急落 協調介入合意で
18日の東京外国為替市場の円相場は日米欧の協調介入合意を受け、午前9時過ぎに一時、1ドル=81円台まで急落した。17日未明に戦後最高値を更新した1ドル=76円25銭より、5円近い円安ドル高水準。
- 朝日新聞2011/03/18 -


通貨心理

伝統的に根強いのは「有事のときのドル」という心理。アメリカは今でも世界最大の軍事大国であることに変わりはない。一触即発の危機が起こっても、軍事力とその地理的位置からアメリカは壊滅的被害を受ける確率は少ない。そのアメリカのドルで資産を持ちたいという意識は為替相場に大きな影響力をもつ。
NEWS BOX
NY円、一時82円94銭 8カ月ぶりの円安ドル高
北朝鮮によるミサイル発射で東アジアの地政学的リスクが意識され、円売りが拡大した。欧州株が堅調に推移していることを背景に、投資家のリスク回避志向が和らいでいることも円を売る動きにつながった。
- 共同通信2012/12/13 -

ある国の通貨がドルに対して強くなると、その国より経常収支の黒字が大きい国(たとえば日本など)の通貨もそれにつられてドルに対して強くなる。いわゆる「ツレ高」「ツレ安」という現象である。
NEWS BOX
ギリシャ支援をめぐって欧州連合(EU)各国の支援の枠組みが依然不透明なことから、ユーロ売り円買いが加速。それにつられる形で対ドルでも円が買われる展開となっている。
- 朝日新聞2010/03/23 -


資本の移動(補足)

アメリカの金利が日本より高いからといって、それだけでドルが買われることはない。

アメリカの三ヶ月満期の債券の金利が年6%で日本が4%だとする。日本の債券を売ってアメリカの債券を買えば年2%の利益がでるかというと、そうはいかない。
この三ヶ月の間に、円ドル相場でドルが下落してドル建ての債券の価格が円換算で年3%下落してしまうと、金利で2%もうかったようにみえても、元本の値下がりで3%損をすることになり、結果的に1%の損をすることになる。

アメリカの債券の元本が値下がりしても、その損害の度合いが日本の債券の金利との差である2%より少ない場合に限って、アメリカの債券が買われる(そうなると確実に利益を得られるからである)。

しかし、三ヶ月先の円ドル相場などは誰にもわからない。そこで、アメリカの債券を買う場合には、三ヶ月先のドル相場で銀行にドルを売っておく。ドルの直物を買って先物を売る(スワップ取引)。先物の相場を為替の先物相場という。

直物と先物の為替相場の差よりも、金利の差が大きい場合(これは現在の時点でもわかる)に、投資家はアメリカの債券を買う。ここに資本の移動が起こる。そうでない場合は買ったりしないということである。