国(政府)の借金

2017年9月末での国の借金(国債、借入金、政府短期証券)は1080兆4405億円である。このうち国債が949兆9986億円。もちろん増える一方で減る気配はまったくない。
たぶん、国はもう返す気はないだろう。日銀にインフレを起こさせてその価値を減価させることを目指していることが見えてくる。それまではなんだかんだと小理屈をつけてウダウダと愚国民をだましで引き延ばし、相変わらず借金しまくって湯水のように大盤振る舞いで使いまくることだろう。

国債の残高は、オイルショック後の1975年あたりから徐々に増加していた。それが初めて100兆円を超えたのは1983年である。それからあとは「雪だるま」式に増加していって、現在のように堆積してしまった。

問題は、この国債の大量発行、膨大な累積赤字の結果はどうなるのかということである。庶民は国債を大量に持っている1)から、この点については関心も多少はあるだろうと思われる。
NOTES
1) 直接は持っていなくても、銀行・郵貯・証券・生保会社などへの預貯金・投信などを通じて大半の国民は国債を購入しているということである。 2012年9月末の国債発行残高のうち、外国(人)の保有額は約9%にすぎない。それ以外は日銀や日本国民が保有している。

さて、この結末として考えられる代表的なパターンには次のようなものがある。
  1. インフレーションを起こして、国債の実質的価値を減らす(減価)させる。悪く言えば借金の踏み倒しである。
  2. 低金利の国債に借り換えて、国債の利子負担を減らす。
  3. 増税によって収入を増やして、国債そのものを減らす。
国が「沈没」してどこか他国の「植民地」にでもなっていないかぎり、日本の膨大な国債についての解決法はこのどれかになる。


インフレーションを起こす

日銀が政府の国債を引き受けることが続くとすると、紙幣がどんどん印刷されて出回ることになり、財政規律はガタガタになる。その結果インフレになる。極端にいえば、1年前は1000兆円の国債があったが、今は1兆円の価値しかないとなれば、この問題は一挙に解決するというわけである。

第二次世界大戦後の日本では、戦費調達のために戦争中に発行した大量の国債を激烈なインフレーションによって減価させた経緯がある。政策当局は何もしなくてもよいという極めて「安易な方法」である。ちなみに、この方法は現在の政府や財務省が期待している方法だといわれている。

しかし、激烈なインフレはただでさえ低金利の庶民の金融資産をさらに減価させる。経済的弱者、定年退職者や物価上昇に追いつけない人には過大な負担を強いることになる。政府の借金負担を軽減するためとはいえ、激烈なインフレーションを起こす方法はその「反作用」が大きすぎる。
MEMO
最近よく聞くものに「2%のインフレ目標」という言葉がある。毎年2%のインフレになると、10年後には21.8%ほど物価が上昇していることになる。今、100万円の国債を持っていると、10年後にはその価値は82万円程度ものでしかなくなる。1000兆円の借金は何もしなくても10年たてば820兆円に減る。政府がこれにムキになるのはもう当然である。しかし、一度起こしたインフレーションが2%でおさまるという保証はどこにもない。いわゆる、ハイパーインフレも絵空事ではない。
なぜ財政健全化計画が甘いのか

政府が閣議決定した財政健全化計画、いわゆる「骨太の方針」については次のような批判が圧倒的多数である。
  1. 政府の財政健全化への道筋などをまとめた「骨太の方針」は、甘すぎる成長見通しと、歳出削減や増税など痛みを伴う改革から逃げた内容だ。」(東京新聞2015/07/04)
  2. 台所が火の車だというのに、危機感があまりにも薄い。抜本的な解決策を先送りにしていれば、財政がさらに悪化し、国民生活は苦しくなるだろう。」(信濃毎日新聞2015/07/02)
  3. 国の借金が1千兆円を上回るのに、今年度の予算は54兆円余の税収に対して歳出が96兆円を超え、なお借金を重ねている。  財政再建策を議論している政府の経済財政諮問会議のメンバーには、そんな現状への危機感がないのだろうか。」(朝日新聞2015/06/14)
財政健全化計画なんてことは政府はまともに考えてはいない。そんな面倒なことよりも、インフレを起こしさえすれば、簡単に実質的な借金を激烈に減らせるからである。
政府にしてみれば、国民からどんどん借金していけ。そんなものは「ン十年後」には帳消しになっている。そんな「大船に乗った」ような気持でいることであろう。なんせ相手は朝三暮四のゴマカシが何度でも通用するサル以下の日本愚国民なのだから。


インフレでごまかそうとする例

インフレを起こして借金や政府の債務を実質的に減らそうという政府の「作戦」の好例に次のようなものがある。
NEWS BOX
元挺身隊員に手当199円 70年後支給、韓国で反発
【ソウル共同】太平洋戦争中に名古屋の三菱重工業の軍需工場で働いた元朝鮮女子勤労挺身隊の韓国人女性計4人(1人は死去)が厚生年金の脱退手当金の支給を求めたところ、日本年金機構が3人に対し、70年間の未払い期間の大幅な物価上昇を考慮せず、1人当たり199円だけを2月4日に支払ったことが25日分かった。
199円は、終戦直後の1945年9月時点の算出額とみられる。
- 東京新聞2015/02/25 -
この手口でいけば今1000兆円を超すような借金も100円程度にするのも夢ではないのである(笑)。借金状態でも長い時間が経過するといずれインフレが起こる、または起こす。その時までウダウダと借金を引き延ばしておけばよいだけである。


政府の意図が見えてくる

NEWS BOX
◆インフレ税を企図か
財政事情を考えて低金利のまま動かなければインフレが進む。そうすると、お金の価値が下がるので国の借金残高や預金は実質的に目減りする。インフレで税収も上がる。「インフレ税」という、いわば禁じ手の借金圧縮策である。
預金を海外に移すなど資産防衛できる富裕層は別にして、結局ツケが及ぶのは預金者や生活必需品などの値上げに苦しむ庶民である。財政再建にやる気を見せない政権は、インフレ税を当てにしているのかと思わざるを得ない。
- 東京新聞2015/08/05(社説) -
憲法さえも破壊する極右政権である。「禁じ手」であろうが関係なくやるだろう。実際は日銀に紙幣を印刷させることだけである。そのあとに残るのは暴政だけである。

参考
ケインズ「貨幣改革論」/インフレで一番得をするのは誰か(bk2_0101)


低金利の国債に借り換える

低金利の国債への借り換えは、第一次世界大戦後のイギリスで成功したことがある。1931年イギリスは金本位制を廃したため異常な金融緩和状態になった。そこで5%の金利の戦時公債21億ポンドを3.5%の国債に借り換えたのである。

日本でもこのような低金利の国債に借り換えれば国債の重みはかなり解消される。国債の利払いのためにさらに国債を出すという「サラ金財政」は多少は改善される。これは現在でも行われているが、借金を減らすことの抜本的解決にはならない。借金そのものではなく借金の利子を減らすだけだからである。

金融抑圧政策
デフレを脱却したとしても現行の超低金利が維持されるといわれる。金融抑圧政策とは、国の国債などの借金負担を軽くするため強制的に金利を低く抑えることである。
物価が上昇し景気が良くなると企業の資金需要が増え(金に対する需要が高まり)金利も上がるのが普通である。しかし、政府は現在まで大量に国債を発行しているため、金利が上がると1000兆円を超す借金の利払いが大幅に増加して財政破綻を招く。そのために超低金利を維持しようとするからである。

しかし、低金利は庶民にとっては増税と同じような効果をもつ。
物価は上昇する(デフレ脱却=インフレ)が、預金などの金利は低いままだと、預金者や年金生活者の生活はさらに苦しくなる。政府の借金返済のため、経済的弱者は苦しい生活を強いられることになる。すなわち、国の借金のために庶民の預貯金が犠牲になるという構図である。甘い幻想は持たない方がいいだろう。つまるところ、デフレから脱却したところで庶民の持つ預貯金などの利子が上がることはまずない


増税する

国債の大量累積問題の正統的な解決方法は、税収入を上げてそれで借金を解消することである。これは、家に借金があれば働いて稼いで返すしかない。それと同じである。国の収入源は税金である。国が手軽に収入をあげるには増税、それも消費税がいちばん簡単な方法である。

確かに、これは解決への最短距離である。しかし、過去何度も増税はされたし、消費税も創設され、その税率も引き上げられてきた。それでも国の借金は増加の一途で減らなかった。減る気配もなかった。これはどういうことなのか。

ケインズ流の財政政策
不況期には政府が国債を発行して公共事業などを行い景気を刺激する。その結果、景気がよくなる。そして、好況期になったときに税収が上がり財政黒字になる。それで不況期に発行した国債を償還する。

しかし、過去の日本では上のようなメカニズムは機能してこなかった。好景気のときにも国債は償還されず、財政は黒字にならなかった。それで国債は堆積していくばかりになった。


増税の効果はあったか

なぜ、増税しても財政が黒字にならなかったのか。これには政治が大いにからんでくる。すなわち、好景気の時に財政は黒字になったが、その黒字が過去の国債の償還に使われず、政治的に他の用途に流用されてしまったからである。

選挙で選ばれる政治業者は、概して減税には賛成、増税には反対である。増税など選挙民に不人気な政策を唱えれば選挙に落ちることは明白だからである。

彼らは、景気が悪いときには国債を発行して景気を刺激しようとする。ここまではケインズと同じである。しかし、好景気になって財政が黒字になったときに、それで国債を償還して過去の赤字を埋めようとはしない。ここからケインズとは異なる。

その資金を選挙民への人気取り(得票を期待)や関係業界の関心を引く(資金を期待)ための政策に使ってしまう。それらの資金を次の選挙に当選するために大盤振る舞いをしてしまうのである。これで次の選挙も安泰だというわけである。

すなわち、財政黒字を、財政政策からは当然とされる国債の償還に使わずに、それを政治的に他の用途に流用してしまう。これが国の借金が増える一方で、減らないメカニズムである。


新聞論調は批判的

政府の増税には批判的な論調が圧倒的である。つまるところ、今のようなことをしているだけでは過去にやってきた「悪習慣」のくり返しにすぎないからである。増税しても借金は返さないのならその増税は無意味である。この正論が政治業者には通用しないのである。
NEWS BOX
【14年度政府予算案 増税して「ばらまき」とは】
中でも目立つのが公共事業費の膨張だ。道路、港湾などへのばらまきが横行し、かつての自民党政権に先祖返りしたかのようだ。
(中略)。
族議員の歳出拡大への圧力は目に余った。群馬県の八ツ場(やんば)ダム本体の工事費は、5年ぶりに復活した。「国土強靱(きょうじん)化」の名の下で、イノシシなどの鳥獣被害防止策まで盛り込んだ。自民党は民主党の高校授業料無償化などを「ばらまき」と批判したが、「人からコンクリートへ」逆戻りした旧来型のばらまきだ。(中略)。ばらまきは他の分野でも目立つ。
(中略)。
財政状況は一段と厳しさを増す。7兆円近い税収増にもかかわらず、不要不急の歳出の削減に切り込めなかったためだ。
(中略)。
日銀は大胆な金融緩和で新規国債の7割もの購入を続けている。実態は国の借金の肩代わりであり、国債の信認が低下し、国債価格が急落するリスクを抱えている。増税で経済が失速すれば、財政破綻さえ現実味を帯びる。
- 北海道新聞2013/12/25 -

【来年度予算案】
財政規律が緩んでいると言わざるをえない。1000兆円を超す借金漬けの財政を放置すれば必ずツケが回ってくる。だから国民は増税を受け入れた。政府が歳出を効率化、重点化するのは国民への義務だ。その改革はどこへ行ってしまったのか。
(中略)。
「国土強靱(きょうじん)化」を旗印とする自民党議員が「地方の活性化に公共事業は必要」と反発。臨時国会で国土強靱化基本法が成立したことを追い風に、防災・減災や耐震化、老朽化対策を旗印として、歳出圧力を強めた。結局、公共事業費は前年度当初予算に比べ実質2%増となり、2年連続で増加した。政府は今月中旬、消費増税後の低迷を支える経済対策として13年度補正予算案を編成した。そこに盛り込まれた公共事業費と合わせると大盤振る舞いと言える。
- 毎日新聞2013/12/26 -
借金したらすぐに返済する、そういう基本的「生活習慣」(財政規律)が守られていなかったために、今や、その借金はたまりにたまって、もうどうしようもないぐらいに巨大なものになってきた。長期にわたって堆積したゴミは一朝一夕には片づけられない。数十年にわたって積み上がった借金を崩していくのにはやはりそれと同程度(またはそれ以上)の長年月を要することになる。


結局どうなる

このまま何の抜本的な対策もせずにズルズルと国の借金が増え続けると、いずれ国の財政は破綻する(いわゆるデフォルト)。ギリシアなどの例をみれば財政破綻した国がどんな運命をたどるかはだいたい想像できる。

現在は日本の国債のほとんどが国内で消化されているから大した問題は起こっていない。「お上のなさることには間違いはございますまい」という心情は日本人の間には根強い。しかし、国債のほとんどを国民が持っているということは、財政破綻したときギリシア1)のようには、日本には援軍はやってこないことを意味している。日本の国債がゴミになっても外国はどこも損はしないからである。
NOTES
1) ギリシアはEU加盟国である。加盟国どうしではお互いに国債の持ち合いのようなことをして結束を維持している。一国の財政破綻は即座に加盟国に波及する。したがって、財政的に支援せざるをえない状況にある。

国民は悠長に構えている。今のところは「眠れるブタ」状態である。しかし、たとえば、国債の利子が払ってもらえない。国債の元本が償還されない。国債が暴落する。激烈なインフレが起こって100万円で買った国債が償還時には10万円の価値しかない。そんな状況になると大パニックが発生することは確実である。そのときにサル並みのニッポン愚国民もやっと目を覚ますことになる。しかしそれでは時すでに遅しであろうが、愚国民の末路としてはこれ以外にはない。

- 2014/02/15 -



こういう状況が変わっていく気配は見えないようである。
NEWS BOX
【15年度予算案 見えない「負担」も語れ】
歴史的に政府債務を削減する手段は、経済成長や増税、歳出削減が王道であり、ほかに「禁じ手」の部類といえるのが低金利政策やインフレである。
低成長が続く日本では、経済成長だけで債務を削減していくのは限界があり、といって増税や歳出削減は不人気ゆえに政治家が避けてきた手段である。残るインフレや低金利はアベノミクスと符合する政策なのである。
日本の債務残高は、例えれば河原で積み上げる小石の山のようなものだ。何かのはずみで、いつ崩れてもおかしくない。それでも政府が小石を積み上げ続けられるのは、アベノミクスの異次元緩和で金利を低く抑え込んでいるためだ。だが、この人為的な超低金利は預金者や金利生活者、投資家の金利収入を犠牲にしていることに等しい。
さらにアベノミクスが目指すインフレ政策である。お金の価値が下がるインフレにすれば、借金も実質的に目減りする。これも、目に見えない形で民間から国が税金を徴収しているのと同じ効果があり、税の専門家が「インフレ税」と呼ぶ手段である。
- 東京新聞2015/01/15 -



次のような素朴な問いかけがある。相手にするのもアホらしいほど無意味なものであるが、サルの惑星、愚民国家ニッポンの住人の知能レベルが如実にわかる例である。
Q&A
157.14.178.254 [02/May/2016:13:03:43] インフレになるとどうして政府債務は削減できるのか
49.251.112.74 [13/Apr/2016:09:05:38] インフレになると国の借金がへるか
こういうオトコは、債務や借金の名目(金額の数値だけ)にしか目が向いていないのである。それで、債務や借金は減るわけがないと言うのである。確かに、その金額の数値は減らない。しかし、その実質的な価値が減ることには理解が回らない。こういうサルが多いと日本の低能政治業者でも政治や経済の運営は実にラクなことであろう。政府が文科省を通じて国民白痴化路線を推し進めていくのもわかる気がする。

こんな程度では政府の朝三暮四的なペテンにもあっさりだまされてしまうだろう。しかし、これが愚民国家ニッポンの多数派である。名目と実質の違いがわからない者、インフレによって貨幣の価値が下がるということかわからない者にはここで書いていることなどわかるはずがないからである。

今から40年以上も前、150円持っていれば、学生食堂では豪華なランチが食べられた(メニューの中で最も高かったもの)。あれからインフレが進んだ。そして、今それと同じ額の150円で、あの時食べられたランチと同じものが食べられるかといえば、絶対にそんなことはない。100円硬貨と50円硬貨。昔も150円、今も150円。この金額は名目上は少しも減っていない。しかし、その価値は5分の1以下に減っている。しかし、こんなことを書いてもサルには「サル語」でも使わないと通じないのだろうが(笑)。
- 2016/05/02 -