巧妙な言い換え

いよいよ新型インフルエンザが日本にも侵入してきそうな気配である。ところで、これが最初にニュースになったときは「豚インフルエンザ」だった。しかし、イメージダウンを恐れた豚関連産業界の要望で「豚」をはずして「新型インフルエンザ」にしたという。まさに、言葉は便利な道具であるという面をここでも遺憾なく発揮したようである。

これに関連して、少し前に届いた「図書」2009年5月号(岩波書店)で作家の古井由吉さんが「言葉の失せた世界」と題したエッセーの中で次のようなことを書いている。
初めにサブプライムローンなる言葉があり、信用貸しの危険度を示す用語であるらしいが、これを低所得者向けの高利金融という実の見える名で呼んでいれば、それ自体すでに破綻ふくみであり、膨張によってのみ維持され、いずれ限界に至るということは、意識からはずれなかったのではないか。
サブプライムローンの場合は、最終的に被害を蒙るのはそれに出資という形で参加(それが組み込まれた債券を買うこと)した末端の庶民である。彼らには「業界」のような組織力もなかったから、それを「低所得者向けの高利金融」にせよという「圧力」も働かなかったのであろう。

また、たとえそういう力が働いたとしても金融業界に弱い政府(多額の政治献金も受けている)が、行政指導によって金融業界に不利になるような言い換えを認める方向に動くとも思われない。結局は、力ある者の声だけが通って、相変わらず「人民は弱し」のままである(笑)。

いずれにせよ、言葉狩り、言葉の言い換え、横文字に言い換える、漢字をひらがなにする、など様々なパターンで物事の本質を隠そうとする「言葉」操作があまりにも多いことにいまさらながら驚くばかりである。さすが、言葉は人類が発明した最高傑作であるとはよく言ったものである。

- 2009/05/02 -