新書のリニューアル

岩波新書がリニューアルするという。はじめて読んだのは高校のときだった。書名は忘れたが確か青版のなにかだった。こんなに安くて内容の濃い本があるのかと驚いたものである。以来、本屋に行くと必ずこの新書のあるコーナーはのぞく。何か知りたいことがあったら、まず岩波新書を探す、というのが習慣化してしまった。

ところで、「図書」2006年4月号(岩波書店)に岩波新書のリニューアルに合わせて、それに関係ある話がいくつか出ている。昔なつかしい書名がずらずら出てくる。ついついこういう記事は読んでしまう(笑)。その中でノンフィクション作家の柳田邦男さんが「知的遊泳からの芽生え」と題して「高校時代には、清水幾太郎の『愛国心』に煽動されたが、政治的な言葉の危うさに気づかされた点は、政治や社会を批判的に見る眼の素地になった」と、回顧している。

高度経済成長期には、人文・社会系の分野は自然科学に比べると「何の役にも立たない」と揶揄されることが多かった。あの時代は「モノ」がすべて。物質こそは富だという時代であった。

たしかに、人文・社会系分野は物質的なモノの生産には何の役にも立たないが、批判的にモノを考えることのできる「人間」を作るのには不可欠の教養である。批判精神はこういう本からしか得られない。この点では、今なおその重要性はいささかも減じていない。「精神のない専門人、心情のない享楽人1)」ばかりがはびこるようではこの世はますますつまらなくなるだけであろう(笑)。
NOTES
1) M.ウェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神(下巻)」(岩波文庫)246p

- 2006/04/23 -