時代小説と歴史小説

戦国時代や川中島の戦いなどは歴史的にも最も動きの激しい時代の話なので興味あるところである。その昔読んだことがある井上靖の「風林火山」がNHKの大河ドラマでやっているのでよく見る。当時は確か新潮文庫で読んだもので、映画1)になった場面の写真がカバーに出ている。

ところが、この小説は「井上靖歴史小説集(全11巻)」(岩波書店)には入っていない。個人的にはこれは非常に残念なことであると思うのだが、この小説は歴史小説ではなく時代小説であることが理由であるらしい。

歴史小説と時代小説はどうちがうのか。一般的には、時代小説は歴史的事実を無視して作者が想像力を働かせて思いのままに書いたものをいい、歴史小説は歴史家の学術書や史料を駆使してその時代と人物を冷徹な史眼をもって描いたものとされているようである。

しかし、「風林火山」の場合は山本勘助が架空の人物かもしれないという点が大いに影響しているようである2)。それ以外の点については歴史的事実と一致しているといわれているからである3)。しかし、描かれている話自体は「時代」か「歴史」かという分類などにはかかわりなく面白い。むしろそういうことを意識しないほうが余計に楽しめるのかもしれない。
NOTES
1) 山本勘助が三船敏郎、由布姫が佐久間良子だったようである。
2) 江戸初期に書かれた「甲陽軍鑑」によって喧伝された架空の人物であるというのが有力説とされている。
3) 井上靖歴史小説集第10巻の月報による。

(参考)
「風林火山の跡をゆく」(THE GOLD 2007年4月号30p)

- 2007/02/16 -



広辞苑によれば、歴史小説とは、「過去の時代を舞台にとり、もっぱらその時代の様相を描こうとする小説。島崎藤村の「夜明け前」など。 単に過去の時代を背景にする時代小説などとは異なる。」ということである。しかし、こう簡単に区別ができるものかは疑問である。所詮は程度問題なのかもしれない。