伊勢と伊勢神宮

サミット開催でにわかに脚光を浴びてきた伊勢志摩地方。そのせいでもあるまいが、今日きた「partner」(2016年4-5月号)の特集が「伊勢志摩コーストトリップ(coast trip)」というもの、簡単にいえば伊勢・鳥羽・志摩の観光ガイドだった。このあたりはかつて学生の時に行ったきりで、それ以後は行く機会もなかった。ところが、急に今年の夏頃に一泊二日で旧知が集まろうという話がまとまった。オヤジサミットである。

大阪方面や名古屋方面から行きやすいようにとの妥協の産物でその中間地点としてここになったようである。鳥羽の相差(おうさつ)という所のようである。ずっと前になるが、知り合いがそこに行ったことがあって、あそこはよかったと言っていたのを思い出した。それでついついこの特集をしっかり見てしまったわけである。カラフルな写真を見ていると、もう行く必要はない(笑)、などと思ってしまったが、今さらむげに断わることもできない。

この記事には相差も出ていた。海女(あま)ちゃんたちの本家のような所で、海産物が豊富なようである。レジャーに行くなら海か山かと言われるが、こと食べるものに限れば圧倒的に海の方に軍配が上がる。今から楽しみにしておこう。

その記事の中で、間違って思い込んでいたことを一つ発見した。日本酒のブランド名で「白鷹」というのがある。これはてっきり今まで「灘の酒」5)だと思っていたが、実際は伊勢の酒だったようである。内宮前の観光エリアの一角(おはらい町と呼ぶようである)にそれが立ち飲みができる店があるという。価格もリーズナブル。「参拝後に立寄りたいなおらい1)の酒屋」というキャッチフレーズである。神仏への信仰心はほとんどないので神宮へのお参りはどうでもいいが、機会があればこの酒は是非一杯飲んでこよう。
NOTES
1) なほらひ(直会)とは、斎(いみ)を解いて平常に戻るという意味。
5) 伊勢神宮の神宮御料酒の「白鷹」は灘の酒の「白鹿」で有名な辰馬本家酒造の分家である辰馬悦蔵商店の酒である。

ついでに、伊勢神宮が天照大御神を祀っていることはよく知られているが、正確には内宮が天照大御神で外宮が豊受大神である。 この記事のなかで、「衣食住の守り神である豊受大神とようけのおおかみ」という記述が出てくる。「衣食住の守り神」となると人間生活における万能の神ということになる。神様もいろいろな「効き目」「効能」があるほうが有り難いだろうということかもしれない(笑)。

ところで、外宮の祭神とされている豊受大神であるが、古事記2)では「登由気(とゆけ)の神」として度会(わたらい/伊勢市)に坐す神として出てくる。登由気は「とようけ」を縮めたもので、「とよ」は「豊かな」、「う」は「立派な」、「け3)」は「食物」という意味で、全体としては「豊かな食物」ということになる。これは具体的には「稲」を指している。「食」はいいとして「衣住」はどこからでてきたのか。不当表示に近い「効能書き」である。もっとも、こんな御利益効能などはどこの神社でも検証不可能なことだから、ドサクサまぎれに何を書いていても問題にもならないのかもしれない(笑)。

また、古事記の原文では「登由宇気」であるが、奈良時代では母音の並列を嫌うので「とゆけ」か「とよけ」になる。「とようけ(TOYOUKE)」の「O」か「U」かが欠落した読みになるのが昔は普通だったようである4)
NOTES
2) 古事記のこの部分は新潮日本古典集成「古事記」(西宮一民校注)343p,395pによる。
3) 「け」は漢字では「食」である。朝食の「あさげ」や夕食の「ゆうげ」という言葉の「げ」は食物を意味する「け」に由来する。
4) これは今でもこの名残のある語が多い。「荒磯」は「あらいそ(ARAISO)」だが母音が連続する場合はどちらかの母音が欠落する。この場合は「ありそ(ARISO)」になる。

- 2016/03/20 -


参考
伊勢の「おはらい町」
伊勢フーテン旅行