櫻の實

初夏の風物詩「サクランボ」をもらう。多謝。これほど季節感を感じさせてくれる果物は少ないだろう。

ところで、島崎藤村の「桜の実の熟する時」(岩波文庫)という小説のサブタイトルに「思はず彼は拾い上げた櫻の實を嗅いで見て、お伽話の情調を味つた。それを若い日の幸福のしるしといふ風に想像して見た。」というフレーズが書かれている。

この「櫻の實」がいわゆる「サクランボ」を指すのかどうかはよくわからない。この小説は明治20年頃の話である。当時「サクランボ」が一般的に出回っていたのかどうか、それは浅学菲才の身の上では知る由がない。

しかし、藤村ならずとも、青春の甘美な思い出に通ずるものがあるのは、多くの人に共通する情感のようである。

ちなみに、アルティル諸島(マルティニク、グアドループ、サント・ドミカゴなど)ではコーヒーの木が多数栽培されている。そこでは、熟したコーヒーの実は赤いので、現地では「サクランボ」と呼ばれているという1)。所変われば品変わるということかもしれない(笑)。
NOTES
1) ファーブル「ファーブル博物記4 身のまわりの科学」(岩波書店)170p。


- 2015/06/23 -