「テロに屈しない」と「人命優先」

アルジェリアで起こった人質事件1)はこの種の事件としては電光石火のごとく短時間で終結した。しかし、その反面で多数の犠牲者が出た。スピーディな軍事行動はアルジェリア政府の筋書きだっのだろう。「人命優先」とは、民衆受けする「聞こえ」のいい言葉だが、これは結局「テロに屈する」ことと等しい。「テロには屈しない」「テロとは断固戦う」と言うなら最終的にとるべき行動はこのようなものになってしまう。

かの地でなくなった人は、だれも死にたくはなかっただろう。テロに屈してでもいいから人命優先にしてほしかったはずである。しかし、国としては、そんなことをすれば国のメンツは丸つぶれである。いつまでたってもテロはなくならない。「個人」の論理と「全体」の論理が真正面から対立するところである。

ところで、もしこのような事件が日本で起こった場合、政府はどのような対応をとるのだろうか。今まで直接に日本人をターゲットにした事件が起こらなかったことがその対応を先延ばしさせてきたのである。もしそれが現実になったとき、果たして日本は「人命優先」と「テロには屈しない」の二律背反2)を解決できるのであろうか。今まで曖昧にしてきたことについて究極の決断を迫られるだろう。

「人命優先」のために「テロには屈しない」という看板はおろすのか、それとも「テロには屈しない」として人命は犠牲にするのか、興味あるところである。昨今の世界情勢をみると、そういう事件が起こるのはもう時間の問題になっているのである。
NOTES
1) アルジェリア東部イナメナスの天然ガス関連施設でのイスラム武装勢力による人質事件。プラント建設大手「日揮」の日本人駐在員をはじめ多数の外国人を人質にした。日本人駐在員17人のうち10人が犠牲になった。
2) 相互に対立し矛盾する二つの命題が同等の権利をもって主張されること。

- 2013/01/21 -



日本人をターゲットにした事件が起こった。
NEWS BOX
イスラム国拘束:シリア北部か 本拠地、救出作戦は困難
【カイロ秋山信一】イスラム過激派組織「イスラム国」とみられるグループが日本政府に人質2人の身代金を要求した事件で、日本人2人がシリア北部ラッカ周辺で拘束されている可能性が高いことが21日、シリア反体制派への取材などで分かった。ラッカはイスラム国の本拠地で、特殊部隊などが潜入するのは難しく、米軍の人質救出作戦も昨年、失敗している。交渉以外で2人を救出するのは困難な情勢で政府は難しい対応を迫られている。
日本政府によると、拘束されているのは千葉市出身の湯川遥菜さん(42)と仙台市出身の後藤健二さん(47)。イスラム国は20日、2人の映像を公開し、政府に72時間以内に身代金2億ドル(約236億円)を支払うよう要求した。
- 毎日新聞2015/01/22 -
このパターンの場合、過去の例から推測すると、政府がカネを出さないと、国は国民を助けないのかと非難される。かといって、カネを出して助けると、今度は帰国した人間は世間の袋叩きにあって「死んだも同然」状態になる。

新聞論調などでもこの究極の二者択一に決着をつけるよう主張はみられない。以前、保守を自認する者が自己責任を強調して「国は助ける必要はない」と主張していたが、その男が自分が同様の立場になったら国に助けてもらったというぶざまな事件があったこともある。