校長、自分の子供はどうなのさ

高齢化社会になって人間が従来よりも多少長生きできるようになったのはいいが、それに応じて次のような頑固老人も増えてくるのは困ったことである。
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「女性は2人以上産むことが大切」中学校長、全校集会で
大阪市立中学校の男性校長が2月29日にあった全校集会で「女性にとって最も大切なのは子どもを2人以上産むこと。仕事でキャリアを積む以上の価値がある。子育てした後に大学で学べばいい」などと発言していたことがわかった。関係者によると、市教委の聞き取りに校長は発言を認め「間違ったことは言っていない」という趣旨の説明をしたという。
- 朝日新聞2016/03/11 -
こういうことを女の子に対してだけ言うことがすでにダメなのだということがまったくわかっていない。すでにセクハラの兆候が見えているのだが、男尊女卑の古い人間にはそういうことは意識にはない。

子どもは女だけで産むことはできない。「最も大切」なことで、しかもそれが「女性」だけではできず「男性」も必須不可欠なことなら、それは同時に男にとっても「最も大切」なことになるはずである。とすると「男性にとって最も大切なのは子どもを2人以上産ませること。仕事でキャリアを積む以上の価値がある。子育てした後に大学で学べばいい」ということも言わないと釣り合いがとれない。

そして、仮に男に対しても同様のことを言ったとしても、他人の生き方に干渉する権限はないはずである。もっと別のことを「最も大切な」ことだと思う人も多いはずである(たとえば、男女が愛し合うこと、仕事に打ち込むこと、難民救済、ガン撲滅など)

間違ったことは言っていない」というが、昔ながらの伝統的な価値観(思考方法)に凝り固まった偏狭な自分の信念を頑固に主張しているだけにすぎない。校長という立場で無理やり聞かせている点では一種のセクハラ+パワハラにもなってる。

ところで、この校長に自分の娘または息子がいたとしよう。
  1. 自分の娘に対して、同じことを言うか。
  2. 自分の娘が高校を出て大学に行きたいと言ったとき、子供を2人以上産んで子育てした後で大学に行けと言うか。
  3. 自分の娘が仕事をして働きたいと言ったとき、仕事はしなくていいからまず子供を2人以上産むほうが大切だと言うか。
おそらく、この校長の頭の古さからいえば、どれも自分の子供に対しては言わないだろう。まして今は高校生の大半が大学に行く時代である。そんな状況下で子供の同級生の多くが大学に行くというのに、自分の子供に行くなと言えるか。まだ学歴差ゆえの事実上の不利益を受ける可能性もある。この古い頭の校長がそんなリスクを冒すとは考えられない。

この校長の子供をみれば「間違ったことは言っていない」ことを実践しているかどうかは簡単にわかるだろう。実践しているとすると、この校長の娘は、当然高卒で結婚して、子供は二人以上いて、子育てが終わってから大学へ行ったことになる。息子も同様のことになっているはずである。

しかし、まず自分の子供に対しては十中八九そんなことはやっていないだろう(推測)。となると、他人の子供に対しては言うが、自分の子供に対しては言わない。いわゆるダブル・スタンダード(二重の基準/二枚舌)である。まあ、その確認はいずれ興味本位の週刊誌(センテンススプリングの出番だよ/笑)や物見高いテレビや近隣住民がやってくれるだろう(笑)。

この校長は、さしずめ「男は外へ、女は内へ」、「男は男らしく、女は女らしく」という戦前の思想の残滓をひきずった価値観にとらわれているようである。これは「男は立身出世、女は良妻賢母」、「男尊女卑」というパターンになりやすい。簡単に言えば、頭の固い、思い込みが激しい、昔タイプの頑固老人である。

- 2016/03/14 -


後日譚

その後の後日譚である。このニュースがあちこちで報道されたので釈明の機会でも作ってやろうという新聞社の温情によるものであろう。ハッキリ言えば校長の言い訳ばかりである。
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「子産めない女性は寄付を」 「2人以上」発言の校長
朝日新聞の取材に応じ「人口が減るなかで、日本がなくならないためには女性が子どもを産むしかない。間違った発言とは思わない」と述べた。
寺井校長は「生徒や保護者から直接おかしいという声は届いていない。私の発言で傷ついた生徒がいたなら真意をきちんと説明する」と述べた。
出産や子育てへの価値観が多様化し、キャリアを求めたり望んでも子どもを産めなかったりする女性がいることは認め「出産を強いているわけではない。子育てが楽しいということを伝えたかった」と話した。
一方で、少子高齢化や不安定な年金制度などの課題を指摘し「男女が協力して子どもを育てるのが社会への恩返し。子どもが産めず、育てられない女性はその分施設などに寄付すればいい」と主張した。
また、寺井校長は全校集会で「子育てのあと、大学で学び専門職に就けばいい」とも発言していた。これについては「出産や子育て後も学び直しはできる。女性がキャリアアップで不利にならないようにするべきだ」と話した。
- 朝日新聞2016/03/13 -
一見すると、いかにも「社会問題」を述べたというポーズをとっているが、真意はそんなところにはないだろう。「産めよ増やせよ1)」と言った手前、言い訳するのに何か手頃な「こじつけ」はないかと引っ張り出してきたのが、人口減少・日本消滅、少子高齢化、年金制度という社会問題のようである。しかし、さまざまな社会問題など持ち出しているが、どれも後付けの「とってつけた」ような理由で違和感は否めない。
NOTES
1) 「産めよ増やせよ」は、戦争中は兵隊さんの大量生産のために言われたが、今では年金を支える人間の大量生産のために言われている点が異なる。

後付けの「とってつけた」ような理由というのは、
  1. 中学か高校を卒業して、すぐ結婚して、子供を二人以上産んで育てる。そんな夢のような社会的環境が整っているのか
    今の日本の労働者の約4割が非正規雇用という不安定な身分で、若い者の多くが結婚もままならないという現実がある。人口減で日本消滅などを心配するより、こちらの問題の解消の方が重要である。そうすれば自然に結婚も増えるし子供もできる。
    それを言わずに、ただただ結婚して(または結婚しなくても)子供を作れなどとは、どういう神経をしているのか。もともと社会問題を考えるような「視点」がなかったことを露呈しているだけである。

  2. 子育てのあと、大学で学び専門職に就けばいい」というが、高卒後子育てなどで長いブランクがあった者が希望すれば大学に入れるようなシステムが完備しているのか。また、今の日本の社会(または企業社会)で、子育てが終わって大学を出てきたような40歳過ぎの女が専門職でスイスイと就職できるような、そんな職場があるのか。今の日本にそんな夢のような社会的環境が整っているのか
    社会認識の欠如もはなはだしい。そんな絵空事を言って一体誰に通用するというのか。大学生にさえも(いや高校生にも)通用しないだろう。この点においても、社会問題を考えるような「視点」がなかったことを露呈している。

  3. 女性がキャリアアップで不利にならないようにするべきだ」などは、あまりにも女性差別的なことを言ったので、その申し訳程度に付け足しものであることが見え見えである。そんなことは旧態依然の政府や企業などに意識改革を迫ることが先決であろう。できもしない希望的楽観的観測で中学生に幻想を植えつけてどうする。この校長が社会問題などは真剣に考えていないことがよくあらわれている。

  4. 子どもが産めず、育てられない女性はその分施設などに寄付」にいたっては、少子高齢化や年金制度などは男女を問わず全国民的な社会問題として論ずべきものを、その解決の責任を女だけに負わせるもので、発想自体がもう異常なほどである。戦争中の「産めよ増やせよ」を髣髴させるもので、昔ながらの男尊女卑を思わせる。
私の発言で傷ついた生徒がいたなら」なんて、まるで実情を知らないバカおやじ丸出しである。生徒がそんなことを校長に面と向かっていうものか。しかし、裏では「ナニ言ってんのよねぇ、バカじゃないの、あのコーチョー」、なんてことを話しているだろう。

いずれにしても、はじめから社会問題をいうつもりなら、生徒に現時での社会問題を提示して「君たちが大きくなってから少しでも解決に寄与することを期待する」なんて方向にもっていくべきことではなかったか。その解決の内容は各生徒が自由に考えればいい。それを校長の古くさい考え方を押しつけて「女」→「結婚」→「子供2人以上」の方にもっていったのは、もともとそんなに深いことを考えていなかったからである。

ましてや、これから年金をもらおうかという老人がそんなことを言い出すと、世間からは「自分の年金だけは確保したいといういじましい魂胆ではないか」と勘ぐられることは必定である。その意味でもこの種の発言はする必要はなかった(自分の信念として持つのは自由だが)。

- 2016/03/13 -


続・後日譚

前に出てきた校長ニュースである。今度は「「2人以上出産」校長:休日校門に旭日旗 大阪市調査へ」(毎日新聞2016/03/18)だという。旭日旗といえば大日本帝国の陸軍や海軍の軍旗/軍艦旗である(自衛隊でもこれを使っている)。となるとこの校長の頭の中は100年以上も前の状態だったわけである。

「産めよ増やせよ」も年金問題を念頭に置いたものではなく、文字通り戦争するための駒づくり、兵隊さんの大量生産を目ざしたものだった可能性が高い。こういう手合いでも、ナチスの手口をマネして憲法を破壊し、戦前回帰をめざす安倍軍事オタク独裁政権には歓迎すべき親衛隊なので、政権側からは「偏向」校長と呼ばれることはないのだろう。ゆがんだ世界の中ではゆがんだものでも真っすぐに見える、という例でもある。

- 2016/03/18 -

旭日旗については次のようなニュースがある。これが過去の「侵略」のシンボルだったことは確かである。
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東京五輪での旭日旗やめて 韓国国会でIOCへ要求決議
韓国国会の文化体育観光委員会は29日、来年の東京五輪・パラリンピックの開催期間の前後に、競技場で旭日(きょくじつ)旗をあしらったユニホームを着たり、旭日旗を持ち込んだりして応援することを禁ずるよう、国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会に求める決議を採択した。
決議は、旭日旗が戦前に日本の帝国主義や軍国主義の象徴として使われたと指摘した。ナチスドイツのシンボル、ハーケンクロイツ(カギ十字)が、スポーツの国際大会を含む公式行事で使われてこなかったのに対し、旭日旗は制裁を受けずに応援の道具となっているとして、「全世界に旭日旗が持つ歴史的な意味が誤って伝わっている点を憂慮する」としている。
- 朝日新聞2019/08/29 -