仙人部落(広島)

電車に乗るのは久しぶりである。この身ひとつだから車はやめて新幹線8時48分発にする。どういうわけか朝5時頃には起きてしまう。前日、Cさんから電話があった。迎えの車の駐車の関係で待ち合い場所は西広島駅前に10時半前後ということにしていた。この辺はだいぶいい加減である。

われわれの間では、1時間でも2時間でも待とうという暗黙の了解があるから、多少待たせてもよいと思っている。超アバウトな世界である(笑)。単に時間にルーズな人間集団だといえばそれまでだが。

やっと広島駅につく。1時間20分程だった。手土産を買うために、駅前に手頃なデパートか花屋か本屋がないか....と探してみるが....ない! 何だ、この町は? そういえば、広島は、駅前が繁華街になっている駅前型の都市ではなかったことを思い出す。繁華街はもう少し離れた位置にある。

そこで、手土産はあきらめて、在来線で広島駅から2つ目の西広島駅に向かう。広島駅では迎えの車の置き場所がないので、ここで待ち合わせなのだが、やはり来ていない(笑)。さすが「時間にルーズな人間集団」の面目躍如である。

待つこと15分。少し遠くの緑色の車の中から人が手を振っているのが見える。私の隣で同じように待っていた人が走るが、間違いだったらしい。いやまてよ。あのドギツイ顔、銀ぶちの品のないメガネ。ひょっとしてCさんではないか。やっぱり。
(私)「遅いぞ!」
(C)「いよぉ、変わってないな?」
(私)「まあな。おまえも元気そうで」
(C)「どこ行きたい?繁華街でもパトロールするか?」
(私)「近くにデパートのようなところないか?」
(C)「とりあえず、わが高級住宅街の借家に行こう」
先輩・後輩なんて大げさに考えるのは10代だけのこと。今ではそんな区別はまったくない。 とりあえず彼の家にお邪魔することにする。佐伯区にある山の上の住宅街である。

着いてみると、何が「閑静な高級住宅街」だ。広島市とはいえ「文化圏が違う」と言われるほどの田舎である。美鈴が丘という名前だけはきれいなところだった。ただの山岳地帯、陸の孤島、仙人部落、広島のチベット。はるか眼下に瀬戸内海が見渡せる。聞けば冬は雪が積もるとか。Cさんに似ずかわいいい娘(小5)も出迎えてくれた。この前に会ったのは生まれたばかりの時だから、実質的に初対面に近いのだが、妙になついてくるのが気になる。

「広島の交通対策は貧弱だ」「市議会の連中は頭が古い」「ガソリンなど物価が高い」「服はみんなデパートで買うのよ、信じられないわ」「そのくせ、野菜なんか段ボール箱ごと売ってるの」とか、自称「市政ご意見番」のボヤキを聞かされる(笑)。いろいろ世間話をしたあと、市内をブラブラすることにした。

さすが、広島は中国地方のボス。国の出先機関が多いとはいえ、やはり都会だ。車で通ると川を何回も渡る。都会を流れている割には水もきれい。殺風景なビルも川が前にあるのとないのとではイメージが全然違う。おきまりの原爆ドーム、資料館、広島城、メインストリート、繁華街、アジア大会があったオリンピック村(?)などなど。車上からいろいろ案内してもらう。というよりドライブに近い。

少し遅い昼食は、広島名物の「お好み焼」。地下駐車場から出ると「お好み村」というタイトルが見える。たしかに、店が多いので圧倒される。全国に多々あるところの「屋台村」パターンの形式だ。ところが、ここのお好み焼は作り方が、お好み焼の2大文化圏をなす関西(大阪風)とは大幅に違う。同じなのは鉄板の上で焼くという点だけに近い。ビール飲みながらじっと見る。焼き上がるのが遅い。しかし、独自のオリジナリティがあるらしく、うまい。

お好み焼きにソバを入れるのは関西ではオプションだが、ここでは初めから入っている。また、関西ではゆでた麺を焼くこともしない。その他の相違点は、関西では材料を手渡されたあとは自分で焼く場合が多いことと、焼き上がるまでの時間が短いことぐらいか。こんなに多ければ1軒ぐらいは関西風があってもよさそうなものだが一軒もない。もっとも「名物」と銘打っているから、そうせざるをえないのかもしれない。

夜は飲みにでも行こうか、というと、当然ながら奥さん1)の反対で中止。そのかわり、「某借家」でカキ鍋、イワシの刺身という広島の2大名物(と思うが?)を中心にすでに予定ができている。なかなか豪華(ご苦労かけます、感謝)。美味。店と違い、時間を気にせず飲み食いができる点がやはり一番よい。広島ローカルのテレビで広島弁を聞きながら、チュウ杯、ビール飲みながらカキ鍋。広島に来た実感がわいてくる。
NOTES
1) この時は元気だった彼の奥さんはその数年後にガンで亡くなり、当時小学5年だったこの女の子もすでに結婚しているという。時の流れは速い。

さて、ここからが恐怖の初体験。例の娘が何を血迷ったか、私と一緒に風呂に入りたいと言い出す。ギョ!!なんとか回避しなければと....アセル。もうちょっと大きくなってからにして、というと奥さんににらまれてしまった(笑)。が、結局押し切られて入ることになる。子供とはいえ、裸でご対面するとこちらが赤面してしまう。......(中略)......。風呂から出て、娘用のパジャマを貸してもらって着る(オイオイ)。この家以外でこんなことしていたら、まるで変態だね。あとは、酒飲みながらウダウダと夜中まで過ごして、暮れていく。。。。



参考/広島の部落

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